卒業生だより
病院の外へ。
街のなかへ。
もっと患者さんの
生活のなかへ。

情野 加奈さん 至仁会 圏央所沢病院 訪問リハビリテーション
作業療法士

病院の外へ。
街のなかへ。
もっと患者さんの
生活のなかへ。

PROFILE
保健医療技術学部作業療法学科 2015年卒業。
高校の頃、バトミントン部で捻挫したときの治療で、漠然と医療職に憧れを持ち、職業を調べていて最初は理学療法士の仕事に興味を持ちました。でも、母に「人と話したり、細かい作業をすることが好きなあなたは作業療法士に向いているのでは」と言われたことをきっかけに、作業療法学科へ。今、あのときの母の勧めに感謝しています。大学時代、一緒に実習や国家試験の勉強を乗り越えた友だちとは、今も年に1、2回はバーベキューや飲み会で集まっています。

1日に5、6軒を訪問。
一人ひとりに合ったリハをご自宅で。

今、私が担当しているのは、リハを必要としている方のご自宅を訪問して行う「訪問リハビリテーション」です。病院を拠点に、クルマや原付で街をまわって、1日に5、6軒のお宅を訪問して、お一人お一人が必要とする作業療法を行います。作業療法士になって最初の1年は、病院でのリハを担当していたので、1年前から訪問リハに出るようになって感じたのは、患者さんと一人で向き合う緊張感でした。

病院では何かあれば先輩や看護士さんに助けを求められたけれど、訪問リハでは自分だけ。転倒して大きなアザができている方がいらっしゃったり、血圧が高い数値を示していたり、患者さんの状況も様々です。今、リハに入っていいのか、判断が難しいときはもちろん電話で上司に相談しますが、現場にいるのは自分。冷静に状況を把握し、対処できるか、最初はとてもこわかったのを覚えています。でも、今、一年間、訪問リハをやってみて感じているのは、家の中にあがらせていただくことで、その方の生活に、より入り込んだ作業療法ができるやりがいです。心を開いてくださって、「来てくれてよかった」「あなたでよかったわ」と言っていただけるのが、とても嬉しく感じるときです。

「もうできないから。」
「いいえ、できるかもしれませんよ。」

リハのプログラムは医師の指示のもと、ケアマネージャーが立てたプランに沿って組み立てますが、具体的な目標や内容はご本人と相談して決めていきます。たとえば、ある女性は、病気をした後、体をうまく動かせず、ずっとご主人に家事をしてもらっていることを申し訳なく思っておられました。「工夫して練習すればできるかもしれません、やってみましょう」と、洗濯やお料理を作業療法に取り入れました。

お料理では「お好み焼きをつくりたい」とのこと。切る、かき混ぜる、焼く、ひっくり返すといった多様な動作が必要で難しかったのですが、麻痺が残る腕でどうボウルを抑えるかなどの練習を一緒に重ねて、ついにお好み焼きができたんです。自信をつけたその方は、いちばん得意だった揚げ物をやりたいと、その次は唐揚げづくりにも挑戦しました。衣をつけたり、熱い油を使ったり、さらに難しい唐揚げづくりも練習を重ねて、まだリハビリのなかではあるものの、6年ぶりの唐揚げづくりも成功。「できると思わなかった」というその方と一緒に食べた唐揚げは本当に美味しかったです。あきらめていたことが、できるようになる。そこに関われることが、作業療法の醍醐味です。アイデアの引き出しを増やして、暮らしを楽しくするサポートをしていきます。

※インタビュー内容はすべて取材当時のものです。